『方丈記』の作者は?

 『方丈記』の作者は? 「鴨長明」と答えるのが常識だろうが、実はその常識は間違っている。

 つい最近、大学の生涯学習講座で浮世絵を学んだ。「東海道五十三次」「江戸名所百景」の作者は「歌川広重」と答えないといけないそうだ。本名である「安藤」を使って「安藤広重」というのは間違いだそうだ。同一人物だから、どちらでも良いのではないかという人もいるかも知れないが、やはり、「歌川派」の絵師として、正しく言うべきだそうだ。なるほど、作者名とはおろそかにしてはいけないものらしい。
 
 確かに、西行法師の俗名は佐藤義清(さとう のりきよ)だからと言って、佐藤義清作『山家集』と言われても困るし、『山家集』の作者は「佐藤義清」とはふつう答えない。これが「常識」である。

 他にも、幼名は金作。通称は藤七郎、忠右衛門、甚七郎。名は宗房、と言われても、どこの誰だか、答えられる人はいまい。答えは、俳号としては初め実名宗房を、次いで桃青、芭蕉(はせを)と改めた「松尾芭蕉」である。

 また、井原 西鶴も、本名は平山藤五(ひらやま とうご)、別号は鶴永、二万翁。晩年名乗った西鵬は、時の将軍徳川綱吉が娘鶴姫を溺愛するあまり出した「鶴字法度」(庶民の鶴の字の使用禁止)に因むそうだ。

 さて、本題の『方丈記』の作者は誰か? 答えは「蓮胤」である。国語のテストの解答として、正解の「○」をくれる国語の先生はいるだろうか?

 『方丈記』の跋文に、「時に建暦の二年とせ、三月やよひの晦日つごもりごろ、桑門蓮胤、外山の庵にしてこれをしるす。」とある。 「桑門」とは《(梵)śramaṇaの訳》出家して修行する人。僧侶。沙門(しゃもん)という意味である。「桑門蓮胤」と自称し、しかも、「外山の庵にしてこれをしるす。」と、はっきりと『方丈記』に記されている。

 作者「蓮胤」自ら「桑門」と書いてあるように、『方丈記』は「随筆文学」の範疇でなく、僧侶が書いた「法語文学」に含まれるべきであろう。

 歌川広重に習えば作者名はおろそかにしてはなるまい。法名の「西行」、号の「松尾芭蕉」「井原西鶴」に習えば、『方丈記』の作者名を「鴨長明」とするのは、作者名をおろそかにしてはいまいか。「作者鴨長明」は昔からの習いであるというのならば、「安藤広重」だって構わないか?!

 『方丈記』は、国語の先生ならば誰でも知っているし、読んだことがあろうが、誰でも『方丈記』の冒頭は知っていても、実は最後まで読んでいる、知っている国語の先生は少ないものである。試しに、このブログを読んだ受験生は、是非、国語の先生に「方丈記の作者は誰か?」と、尋ねてみると良いだろう。『方丈記』を読んだことのない国語の先生は、ことごとく「作者鴨長明」と答えるはずである。もちろん、『方丈記』を最後まで読んでいないので、「跋文」の「時に建暦の二年とせ、三月やよひの晦日つごもりごろ、桑門蓮胤、外山の庵にしてこれをしるす。」とあることを知らないのである。


【令和2年12月23日火曜日加筆】瀬戸内寂聴に向かって、「瀬戸内晴美さん」と言ったら、実に失礼な話。当然、生前の「蓮胤」に向かって、方丈記の作者の「鴨長明さん」と言ったら、瀬戸内寂聴以上に失礼だ。だって、『方丈記』の跋文で、「時に建暦の二年とせ、三月やよひの晦日つごもりごろ、桑門蓮胤、外山の庵にしてこれをしるす。」って、はっきり書いてあるのだから。それでも、方丈記の作者は? 「鴨長明」??



            《 『方丈記』関連記事 》

1)「方丈記」の作者は? https://kiyosige.at.webry.info/201102/article_15.html
2)『方丈記』はつまらぬ駄文なのか (大槻義彦元早稲田大学教授のブログから)
                           http://kiyosige.at.webry.info/201307/article_3.html 
3)学問の停滞、消える学問「国文学」   http://kiyosige.at.webry.info/201306/article_3.html
4)方丈記について、最近考えていること。  http://kiyosige.at.webry.info/201701/article_1.html
5)「方丈記」の作者の「出家」を考える。 https://kiyosige.at.webry.info/202103/article_11.html
6)「方丈記」の作者鴨長明は、「随筆家」ではない。 https://kiyosige.at.webry.info/201909/article_11.html
7)鴨長明は「随筆家」。 https://kiyosige.at.webry.info/202011/article_12.html
8)【トンデモ独自研究】方丈記の作者、鴨長明は実はニートだった? https://kiyosige.at.webry.info/202104/article_2.html
9 )国語の教科書の間違い          http://kiyosige.at.webry.info/201808/article_9.html
10)『方丈記』は「随筆」なのか?       http://kiyosige.at.webry.info/201701/article_5.html
11)『方丈記』は「随筆」ではない。      http://kiyosige.at.webry.info/200901/article_2.html 
12)「三大随筆」                 http://kiyosige.at.webry.info/201002/article_1.html  
13)昭和の時代の受験の知識「三大随筆」の誤りを正す。 https://kiyosige.at.webry.info/201909/article_1.html
14)「二大随筆」 ~「三大随筆」論を廃す~ https://kiyosige.at.webry.info/201909/article_7.html
15)方丈記の「無常観」について       http://kiyosige.at.webry.info/201605/article_6.html
16)<工事中>「方丈記」の先行研究を検証する 「三大随筆」の、研究の最前線
17)随筆『徒然草』の作者は?         http://kiyosige.at.webry.info/201802/article_5.html


■蓮胤の「方丈記」論_関係記事一覧 https://kiyosige.at.webry.info/201909/article_8.html
 

            《 参考文献 》

1)方丈記―付発心集(抄) 現代語訳対照 (1981年) (旺文社文庫) https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B9%E4%B8%88%E8%A8%98%E2%80%95%E4%BB%98%E7%99%BA%E5%BF%83%E9%9B%86-%E6%8A%84-%E7%8F%BE%E4%BB%A3%E8%AA%9E%E8%A8%B3%E5%AF%BE%E7%85%A7-1981%E5%B9%B4-%E6%97%BA%E6%96%87%E7%A4%BE%E6%96%87%E5%BA%AB/dp/B000J80OLS/ref=sr_1_20?s=books&ie=UTF8&qid=1509421751&sr=1-20&keywords=%E6%96%B9%E4%B8%88%E8%A8%98+%E6%96%87%E5%BA%AB
2)『方丈記』と仏教思想 Kindle版 https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B9%E4%B8%88%E8%A8%98-%E3%81%A8%E4%BB%8F%E6%95%99%E6%80%9D%E6%83%B3-%E4%BB%8A%E6%88%90%E5%85%83%E6%98%AD-ebook/dp/B00PMD0MVW/ref=tmm_kin_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=1509422155&sr=1-15 

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この記事へのコメント

通信の仙人
2017年01月07日 17:33
戸籍の氏名変更事由の一つに、出家がある。実際の話として、映画「ボクはお坊さん」の中で描かれている。方丈記の作者「蓮胤」は不当に貶められていると言えまいか。
通信の仙人
2017年09月01日 17:02
『枕草子』は「草子」である。『徒然草 』は「草(草子)」である。それに対して、『方丈記』は「記」である。書名、名称は、作者名同様疎かにしてはいけないものである。この「草子(草)」と「記」の書名の違いについて、きちんと理解している国語教師は少ない。『方丈記』は「随筆」ではないと、疑問に気づいた生徒は、近くの国語教師に尋ねて見るとよい。その違いを理解していて、明確にその違いを説明してくれる国語教師は少ないものである。勿論、この違いが分かっていない教師は、決まって『方丈記』を「随筆」といい、「三大随筆」と覚えろと受験の知識を注入してくれるはずだ。
通信の仙人
2017年09月21日 13:13
「方丈記_作者」で検索をかけると、「方丈記の作者は鴨長明」と何の疑問も持たず、また、物知り顔で知識をひけらかすコンテンツの多いこと。真実は一つ(by コナン)であり、真実を語るコンテンツは我一人(実際は二人)。また、『方丈記』は随筆であると、これまた知識をひけらかすコンテンツばかりであること。蓮胤の生涯を、紹介するコンテンツはあるも、蓮胤以前の知識しか持ち合わせておらず、蓮胤を名乗って以降の知識の浅薄なこと。やはり、真実は一つ。真実を知り得る者は我一人のみか。

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